あの頃の夢を、叶えてあげる

エッセイ書きたかったんだった。ずっと忘れてた。

レモンケーキ


 今日はどうにも不調だった。

 考えすぎ人間のキャパをはるかに越えて、いろんな事が器からはみ出してしまっていた。しかもだんだんお腹がにぶく痛みだし、行く予定だった病院も習い事も全部放り出してぐったりとしていた。

 

 

 気づけば外は暗く、

 すっかりお腹がすいた私は無性にパスタが食べたくなって、重い体を引きずって近所のダイニングカフェへと向かった。

 

 客に対しては寡黙なシェフの作る料理もスイーツも美味で本格派、スタッフの女性もナチュラルで感じのよい、世田谷の住宅地らしい居心地のよいカフェである。そうしょっちゅうではないが、頼りにしていてたまに足を運ぶ。

 雨が降り出しており、入り口で黒板を片付けているスタッフの女性に挨拶して、空いている席に座った。

 

 店内はなかなかの賑わいっぷりだった。私は予定どおりパスタと、ついついケーキを注文して一息ついていた。

 

 そんな折、レジで会計中の老夫婦たちの会話が耳に飛び込んでくる。

「…ええ、今週日曜で終わりなんです」

「残念ねえ、賑わってたのにねえ」

 

 

 …!!!

 

 

 店内の空気が一瞬止まり、私だけでない複数の客が一斉にレジのほうを見た気がした。

 そうなんだ…

 どうにも心が、ざわついて仕方なかった。

 

 

 そのうちパスタが運ばれてきて、今日もその美味しさを味わう。

 ただただ、無心に。

 

 

 

 

 その後、ケーキと紅茶が運ばれてくる。

『本日の自家製ケーキ:レモンケーキ』

 

 いつだったか。一度食べてこれに惚れ込んだ私は、「このケーキいつまでありますか」とシェフに熱く尋ねたのであったが、それ以降、再びお目にかかったことは今までなかった。

 嬉しい…

 

 久しぶりの味は前と同じかどうかはよくわからなかったけど、相変わらず美味しかった一方で、そこから感じたことが以前とは少し変わっていて、時の流れを感じた。

 近くて遠い空の下で暮らす人々のこと、ここでの平和な暮らしのこと。貴重な出会いをし、経験を共にした数々の笑顔。無言の「ありがとう」を体現したような星空と、一筋の流星。そして、不透明な私の未来。

 

 お腹いたいのは相変わらずだし、何も変わってはいないのだけれども、いろんなことを、やわらか〜い感覚で見れたような、

 そんな気がした。

 

 

 そして私はゆっくり紅茶を飲みながら少し仕事を片付け、閉店間際で人もまばらになった店を出た。どうにも迷った末、「残念です」とか「寂しいです」とか特別に声をかけることはやめにした。だけど誠意をこめてやわらかい気持ちで「ごちそうさまでした」と伝えた。

 帰ったら、とりあえずお風呂にゆっくり浸かろうと思った。