あの頃の夢を、叶えてあげる

エッセイ書きたかったんだった。ずっと忘れてた。

ミスジにこれほど心惹かれるのは


 初めて出会ったのは、家族と一緒に行った焼肉店だった。

 めちゃくちゃおいしく味わっていても、何度聞いても肉の部位の名前って覚えられない。ワインや日本酒の名前と一緒。それが、この名前だけはたった一度で深く刻み込まれたのだ。

 

ミスジ

 

 薄切りの霜降り肉をひと口食べてびっくり。なんという繊細な味わい!キメの細かそうな油を感じる。うまみがものすごいんだけど、全然しつこくなくて、もう最高に上品で深い・・・

 希少部位であるミスジは、他の焼肉店でもなかなか目にすることはなかった。この店でもいつも置いているわけではなく、その後もちょくちょく通い、何回かは幸運にも再び巡り合うことができた。しかし、この界隈から引っ越してしまったのもあり、ここ何年かはすっかりミスジから遠ざかってしまっていたのだった。

 

 

 それが最近、予期せず再会を果たした。

 母と、別のお気に入りの焼肉店に行った時。「霜降り五点セット」というふうに一括りにされていて全く気づかなかったのだが、皿に載せられた名前札を見て狂喜乱舞。まさかの「ミスジ」である。

 数年ぶりに眺めて、改めて思う。もう見た目から美しい・・・まるで綺麗な葉脈のようである。惚れ惚れとした後、期待を一寸も裏切らない味わいを深く堪能し、ちゃっかりミスジだけ追加オーダーまでしたのだった。

 

 なぜこれほどまで「ミスジ」に惹かれるのだろう。おいしいものは他にもあれど。

 今更なようだが、そもそも「ミスジ」とは牛のどの部位なのか。おいしければ何でも良くて、そういった知識的なことにほとんど関心がないので、こんなに好きなのに全然知らない。

 そこで調べてみたところ、どうやら肩甲骨の内側の肉らしい。

ミスジは焼肉を好む方の中でファンも多く、1頭の牛からわずか3kg程しか取れない希少部位。(出典:

https://store.hida-yamayuushi.com/blog/meat-books/about-misuji.html 


ですよね。ファンになるよね!

 

肉の中に大きな3枚の筋が入っていることから「ミスジ」と呼ばれるようになりました。(中略)断面は外国産だと牛タン、和牛は木の葉の模様に見えるのが特徴です。(出典:https://store.hida-yamayuushi.com/blog/meat-books/about-misuji.html) 

 
やはり木の葉!葉脈!ですよね。

 

カルビ(バラ)のようなストレートなものとは異なり、より優しさを兼ね備えているので、脂の量とは裏腹に口の中でもたつかず、それでいて濃厚な味わい、そんな魅力がミスジにはあります。(出典:https://store.hida-yamayuushi.com/blog/meat-books/about-misuji.html

 
ああ、もう思ってたことがドンピシャで書いてある!

 

 

 ただ、こんなに知ったような口を叩いていても、よく考えると私はミスジの本当に限られた側面しか知らないことに思い至る。

 

 まず、焼肉の薄切り肉でしか食べたことがない。ステーキなどもあるらしい。実際、見たことはある・・・ファミレスの外観に「ミスジステーキ」というのぼりが立っていたのを。当然非常に気になり、行ってみようと意気込んでいたのだが、結局行かなかいうちにキャンペーンは終わってしまった。ファミレスに行く習慣がなくて行きづらかったのも嘘ではないが、おそらく本質ではない。

 かなり値段も安い様子で、それにテンションが上がったのも事実だが、もし味が微妙で大好きなミスジのイメージが損なわれたら・・・と思うと、ドキドキして怖くなってしまい、行く勇気がなかった、というのが今思うと正しい感覚である。

 

 ミスジを食べたシチュエーションが、すべて家族と一緒というのもひとつの事実だ。焼肉は家族ぐらいとしか行かないので当然ではあるが、そもそもリラックスしていて、食べることに集中できるシチュエーションでないと、おいしさを存分に感じるのは難しい。大事な打ち合わせをしていたり、おしゃべりに全神経を傾けていたりしたら、たとえその場で瞬時に「おいしい!」と感激しても、すぐに意識は逸れ、その余韻は非常に残りづらくなる。後から「おいしかったな」と思い出すことも、まずない。

 ミスジを食べた時に私はリラックスして食事を楽しんでいたという証明になるのだが、結果的に、ミスジが私にとって、家族でおいしい肉を食べるという幸せなイメージにつながっている気もする。しっかり守られて、おいしいものを食べさせてもらう、そんな子どもの頃の原風景的なものへアクセスする・・・そう考えると、ミスジのイメージが壊れるのが怖いというのも頷ける。

 

 

 そんなことを考えていた折、石垣島で超人気焼肉店に行く機会があった。以前家族同然にお世話になった方と再会し、連れて行ってもらったのだ。

 そこで食べた石垣牛のカルビ(うろ覚え)が、ミスジではないのに、ミスジとものすごく近い味わいに思えて非常に驚いた。繊細で、細やかな油を感じ、上品かつ濃厚な旨み・・・

 もちろん、上質なおいしい肉で、実際にそういう似た風味だったのだと思う。だが、私にとってはもはやそれだけの意味にとどまらない。

 

 その時間が、幸せなものだったという証。

 感覚に深く浸透していくような。

 

 

 実は最近、冒頭の焼肉店にほど近いところへ越してきたこともあり、またミスジの焼肉を食べに行こうと思う。どこかで今度はステーキも食べてみたい。石垣牛も、また食べたい。

 欲張りだろうか。

 感謝と、願いを込めて。