あの頃の夢を、叶えてあげる

エッセイ書きたかったんだった。ずっと忘れてた。

すてきなお見送り


 道のかなり先のほうで、小さな子が、お母さんと一緒に三輪車に乗ってあそんでいる。この界隈は車も少ないのんびりした住宅地エリアで、今ここを歩いているのは私しかいない。

 

 突然その子が、びっくりするような大きな声を出す。

「こんにちは〜!!!!」

 何度も何度も。

 

 …え、私に??

 

 到底素通りなどさせてもらえないようなパワーなので、彼らの横まで歩き着くと、私は「こんにちは」とにこやかに返事をする。後ろに立っていたお姉ちゃんと思しき子にも、同じように「こんにちは」と声をかける。

 今時こんなこと、なかなかない。

 

「ぼくはごあいさつが上手だねぇ」

と心からの感嘆の気持ちを込めて伝えると、お母さんが

「もう、愛想だけはよくって(笑)」

 

 そして、じゃあねと立ち去る私に、

「いってらっしゃい」

と手を振って見送ってくれる親子。

 

 なんて幸せな風景。

 

 何十年も前、自分が子どもだったころの近所の家々。今とは違う時代の、懐かしい記憶がいろいろ一気に流れ込んでくる。鼻の奥が少しツンとする。

 

 いろいろあって最近ここに越してきた私を、新しい場所があたたかく受け入れてくれた。そんな気がした。

 

 …あれ、ごあいさつの上手なあの子はどんな顔をしてたっけ。

 あれは、いつのことなのか。

 ほんとにあったことなのか。