ダンデライオンが見せた不思議体験
地元に帰ったときに、よく遊びに行く山があるんです。父親に連れてってもらうお馴染みの場所なんですけど、いい空気の中でリフレッシュして、だんだん素の自分に戻っていくような、いいところです。
その日は、初めて歩く道を一人で散策していました。予想以上に長い坂道をガッツリ登って、それから下って。ようやくひらけた大通りに出ると、そこには…
一面に咲く たんぽぽの花。
草むらいっぱいに、道沿いにずーっと咲き続けていたんです。
もうびっくりするぐらい、すっごくきれいで、「わぁぁ〜〜〜」って感激して。そのとき、BUMP OF CHICKENの「ダンデライオン」っていう曲のことが浮かんできたんです。まさにこの曲とリンクする景色!!
前からよく知っている大好きな曲なので、軽くそらで口ずさみながら道沿いを歩き出したら、「あれ?」って。
体の奥から何かが溢れるように、ボロボロ涙が出てきて。
突然パッと、はじめて、身に迫るようなリアリティを持った体感として、この曲の内容が広がって…知ってるとか理解してるとか感動とか、そういう次元じゃないんです。そういうのをはるかに超えた「物語の真の実感」みたいなものが、直接身体にスッと染み渡っていくような感じでした。
嫌われ者のライオンのさみしさ。一輪のたんぽぽの姿、あたたかい友情。絶望的な状況。心静かな時空を超えた思い。それらをすべて包み込むように谷底いちめんに咲くたんぽぽ。
それらは本当に鮮やかで、じっくり大事に味わいながら、ボロボロ泣き続けながら、その道沿いを延々(けっこう遠かった)歩いて帰っていったのでした。
こういうことって、やろうとしてできるものじゃない。
たとえば私がこの曲を演奏する機会があって理解を深める必要があったとしても、なかなか努力であの境地にたどり着くことはきっとできないと思います。
あれはなんだったんだろう?っていうような不思議体験。ふとぽっかり空いたスペースに、何かが飛び込んできたみたいな。いくつかの難しい条件が揃って、一度きりしか発生しないRPGのイベントのような。
そんな出来事が時々起こるのが面白いなって思います。
猫が過ごす、南の島のカフェタイム
猫が、カフェテーブルの上で盛大に眠りこけている。びくともしない。すぐそばをウロウロしても、全く起きる気配もなく眠りこけている。
微笑ましく眺めていたものの、ちょっと生きてるか不安になってきて…だけど、よく見るとお腹が動いていてひと安心。
そのうちに、耳やヒゲがピクピクすることしばらく…
そしてふと目を覚まし、かったるそうに寝返り。来客をちらと一瞥するも、特に気にするでもなく背を向けて少しもじもじし、体勢が安定すると再び爆睡。
そしてそのまましばらく眠り、大口あけて大あくびをすると、椅子に降りて再々度爆睡。完全に気の抜けた腕のラインが可愛いし笑える。
島タイム。生きてて気持ちいい時間ですなあ。
約束は大人も子どもも対等
ここは、おもちゃがたくさんある部屋。これからこの場所で、幼稚園ぐらいの女の子と大人の女の人が、定期的に一緒に遊ぶという ”ひみつの契約” をしてるみたいなんだけど…
「なんで出していないの!!!!」
女の子が、大声を出している。
「前のとき、『次はお人形の家で遊ぶから、●●が来る前に出しておいてね』って約束したじゃん!」
大人の人が答える。
「そうだったね、ごめん。●●ちゃんの気が変わって違うことしたいって言うかもしれないって思ったから、●●ちゃんが来てから出せばいいかなって思ったんだよ。
・・・けど、約束は約束だもんね。それを守らなかったのは、完全に私が悪いわ。●●ちゃんごめん。ほんとに、ごめんね。」
あんなに怒っていたのに、女の子は大人が拍子抜けするほどあっさり「いいよ」と言い、嫌な気持ちを引きずることなく、人形のおうちで家族ごっこを始めた。
そしておだやかな時が流れ、
女の子は帰る時間に。
いつものように帰り渋る彼女の態度に、手を焼く大人。それもようやくおさまってきたころに、なんの脈絡もなく、突然女の子が言う。
「次の時は、ちゃんとおうち出しておいてよ!!!」
「わかったよ。今度はちゃんと出しておく。今日はごめんね。」
顔を真っ赤っかにして、最後にもう一度叫ぶ。
「今回だけだからね!!!!!」
すてきなお見送り
道のかなり先のほうで、小さな子が、お母さんと一緒に三輪車に乗ってあそんでいる。この界隈は車も少ないのんびりした住宅地エリアで、今ここを歩いているのは私しかいない。
突然その子が、びっくりするような大きな声を出す。
「こんにちは〜!!!!」
何度も何度も。
…え、私に??
到底素通りなどさせてもらえないようなパワーなので、彼らの横まで歩き着くと、私は「こんにちは」とにこやかに返事をする。後ろに立っていたお姉ちゃんと思しき子にも、同じように「こんにちは」と声をかける。
今時こんなこと、なかなかない。
「ぼくはごあいさつが上手だねぇ」
と心からの感嘆の気持ちを込めて伝えると、お母さんが
「もう、愛想だけはよくって(笑)」
そして、じゃあねと立ち去る私に、
「いってらっしゃい」
と手を振って見送ってくれる親子。
なんて幸せな風景。
何十年も前、自分が子どもだったころの近所の家々。今とは違う時代の、懐かしい記憶がいろいろ一気に流れ込んでくる。鼻の奥が少しツンとする。
いろいろあって最近ここに越してきた私を、新しい場所があたたかく受け入れてくれた。そんな気がした。
…あれ、ごあいさつの上手なあの子はどんな顔をしてたっけ。
あれは、いつのことなのか。
ほんとにあったことなのか。